6.プロムス体験レポートNo.4
2005/9/10 感動の最終日、プロムスラストナイト


いよいよプロムス最終日。もともとプロムスに興味を持ったのは、日本のNHK-BSでプロムスラストナイトの放映を観たことがきっかけだったから、今日は期待もひとしお。
ただ、ラストナイトの当日券は前日から寝袋を持って並ぶ人もいる位の激戦と聞いていたので、そもそも会場に入れるのかどうか不安も残るが、これで諦めて行かなかったら一生悔いが残る!と思い、だめもとでロイヤルアルバートホールへ向かってみる。


ラストナイトの当日券チケットの列

開演2時間半前に会場に到着すると、やはり既に長蛇の列。でも思っていた程の混雑ではない。シーズンチケットを持っている人が優先的に当日券を買える列があり、私のように全くチケットを持っていない人は、人数調整後に入れる補欠列のようなところに並ぶ。
会場付近は、いつものプロムスとは明らかに様子が違う。まず、目につくのが、ユニオンジャック(イギリス国旗)や世界各国のハタを売っている売店や売人さん達。見渡してみると殆どの人がユニオンジャックや世界各国の国旗を持っている。そういえばラストナイトをTVで見た時にも、観客みんなハタを振りまくってた記憶が。
シーズンチケットの列には、巨大な英国国旗を服のように体に巻きつけ、「ザ・ブリティッシュマン」になっている人、宇宙人のようなアンテナがついたイギリス国旗帽子(これはかなり間抜け・・・;)をかぶっている人、さらには、全身羽をつけて不死鳥の仮装や、海兵や天使の仮装をしている人達もいて、これはもう完全に「お祭り」モード。
いつもは開演一時間前にはゲートが空いて入場が始めるのだけど、今日は30分前になっても列が動かない。もしかしてやっぱり入れないかも、と不安になってくる。開演10分位になってようやく、係員が「おめでとう!あなたたちもあと5分で入れますよー!」とのこと。補欠列の皆から歓声が上がる。どうやら中に入ることはできそうだ。

これが立ち見ギャラリー席ラストナイトチケット。普段の日よりも一回り大きめサイズ。値段はもちろん4ポンドです。

やっと入れたのは開演5分後位。でもギャラリー席には結構スペースが余っている。前のように最前列の手すり前部分とはいかなかったけど、2列目にスペースを確保して、しきものを敷く。これでやっと、夢だったあのプロムスラストナイトが本当に見れる!と思うとじわじわ感激がこみ上げてくる。


当日行ってもどうせ入れないだろうと思って諦めてしまった方、開演ギリギリでも十分入れる可能性があります。2時間位前にいけば確実に入れるので、来年は是非行って見て下さい!

あたりを見渡すと、ギャラリー席は、いつもにも増して「なんでもあり」の雰囲気。敷物に輪になって座って、お弁当を食べているグループもいれば、グラスにワインを入れて飲んでいる人たちも。お花見の雰囲気に近いです。舞台の様子も全然普段と違う。オーケストラの団員は黒ドレスでなく、赤や水色などの華やかなカラードレス、そしてその後ろには100人を超えるBBC Singers(合唱団)が。

 

これがPROMSのプログラムです。

全期間を通したものではなく、日替わりでコンサートごとに別の冊子が用意される。1冊2.50ポンド(約500円)で、広告部分を抜かしても52ページもある充実の内容。その日のプログラムの曲目解説や、演奏者についての詳細が載っています。

今日の曲目は以下の通り。

Walton
Overture - Portsmouth Point (6 mins)
Handel
Xerxes - 'Ombra mai fu'
Rodelinda - 'Dove sei'
Giustino - 'Se parla nel mio cor' (12 mins)
Rodrigo
Concierto de Aranjuez (22 mins)
Lambert
The Rio Grande (15 mins)

interval
Korngold
Suite from music for "Sea Hawk" (6 mins)
Simon Bainbridge
Scherzi (6 mins)
Trad. arr. Crawford Young
Down by the Salley Gardens (4 mins)
Purcell
King Arthur - 'Fairest Isle' (4 mins)
Elgar
Pomp and Circumstance March No.1 (8 mins)
Henry Wood, with additional numbers arr. Bob Chilcott
Fantasia on British Sea Songs (23 mins)
Parry, orch. Elgar
Jerusalem (2 mins)
Traditional (arr. Wood)
The National Anthem (2 mins)
Traditional
Auld Lang Syne (2 min)

Andreas Scholl (counter-tenor)
John Williams (guitar)
Paul Lewis (piano)
Karen Cargill (mezzo-soprano)

BBC Singers
BBC Symphony Chorus
BBC Symphony Orchestra
Paul Daniel conductor


前半は、ヘンデルの有名な歌曲が何曲か続き、その後Rodrigoのギターコンチェルト。演奏はクラシックギターの巨匠、ジョン・ウィリアムズ。前回やみつきになった「ごろ寝体勢」で鑑賞。あーやっぱり最高です。演奏は素晴らしいし、曲も良いし、ごろ寝は気持ちいいし。この究極の贅沢リラクゼーションが今日を最後にできなくなるのかと思うと悲しい・・。

前半の最後は、BBCシンガーズとオーケストラによる「Rio Grande」で華やかに終わった。休憩中、前に座っていたイギリス人の60歳くらいのマダムが、後ろに座っている私達に「ちゃんと見えてる?大丈夫?」と気を使って話しかけてきてくれた。日本でプロムスをTVで見て以来、ずっと憧れだったことなどを話すと、「えー!日本でもプロムスTVでやっているの?毎年??」と、とても喜んでいた。イギリス人にとっては、自国の音楽祭が、地球の裏側の日本でも放映されていて、感動して観ている人たちがいるって、とても嬉しい事なんだろうな。

後半は、ジョン・ウィリアムズのギターとカウンターテナーAndreas Scholl の2人で、Down by the Sally Gardensなどの名曲が2曲続く。広いホールに、ギターとカウンターテナーの歌声だけがシンプルに響くと、オケの大音響とはまた違った、しんみりとした気持ちになる。

次はいよいよ、PROMSの名物、エルガーの「威風堂々」。この曲以降は、毎年お決まりの曲順で、コンサートというより完全にお祭り! ジャンッというオケの最初の音が始まった瞬間から、観客のテンションも一気にヒートアップ。旗振りまくりです。イギリス国旗がやはり一番多いけど、次に多いのがスコットランドや北アイルランドの旗、そして外国から来た観客の自国の旗らしき様々な国の旗。クラッカーもあちこちでぽんぽん鳴っている。指揮者もサービス精神旺盛で、1.5倍増し位のオーバーパフォーマンス(笑)。そして、ジャジャジャジャジャと音階が上がり、あの有名な「威風堂々」のテーマのフレーズになった瞬間!!

6000人の観客が、ざーっと一斉に立ち上がって、大合唱。

鳥肌が立った。

Land of Hope and Glory.
Mother of the Free,
How shall we extol thee
Who are born of thee?
Wider still and wider
Shall thy bounds be set;
God, who made thee mighty,
Make thee mightier yet.

(so---#fa so la-- mi--re- というあのメロディーです)

あまりの感動に一瞬唖然としていたんだけど、はっと我にかえって、私もプログラム内の歌詞を見ながら、一緒に歌い始める。生まれてこの方、こんなに大勢で一緒に声を合わせて歌ったことはなんてないかもしれない。


思い思いの旗を振りながら大合唱する観客達。

曲が終わっても、観客の歓声と拍手は鳴り止まず、その場でもう一度「威風堂々」のアンコール。更に大きな声で皆一つになって歌う。あー、ずっとこの瞬間が終わってほしくないな、と心から思った。

エルガーの後は、Henry Wood の「Fantasia on British Sea-Songs」これも、何年も前から続いているお決まりのプログラムの一つ。ロイヤルアルバートホールの舞台横スクリーンに、UKの各会場の様子が順番に映し出される。実はこのPROMS最終日は、ハイドパークや、マンチェスター、北アイルランドのベルファスト、スコットランドのグラスゴーなど、UK各地でも同時に野外コンサートが行われていて、生中継でこの本会場のスクリーンと結ばれている。ロイヤルアルバートホールの観客皆で、「Hello Hyde park!」などと、全員で呼びかけると、ハイドパークから大画面を通じて応答が。一箇所の会場で演奏したメロディーを他会場でエコーする同時演奏も。日本の「行く年来る年」中継みたいな感じです。

このFantasia on British Sea-songs は、イギリスの民謡などイギリス人なら誰でも知っているメロディをオーケストラ用にアレンジした、観客とオケの掛け合いなど遊び要素がたくさん詰まったファンタジー。途中、観客が持参したラッパで、合いの手を「ピッピー」と吹き鳴らす曲があって、そのラッパの音と、観客の手拍子で、会場側が指揮者とオケを置いてテンポがどんどん速くなり収集がつかなくなってしまい、指揮者はテンポをコントロールするのに精一杯で殆ど乱舞(?)状態。アリーナ席では、皆ひざでリズムを取って全員で踊っていたりして、本当に盛り上がっていました。

その後は、ロンドンデリーやHome Sweet Homeなど、私も知っているメロディが続き、最後は「Rule Britannia!」。これもエルガーと同じく全員合唱です。歌詞は「Britons never will be slaves」などなど、コレでもかという位「イギリス万歳」な曲です(笑)
それにしてもこの「Rule Britannia!」を歌ってる時のイギリス人の興奮っぷりったらスゴイ(笑) アリーナ席では、あちらこちらでユニオンジャックが一段と大きく振られ、休憩中に話しかけてきてくれた上品なイギリス人マダムも、この時ばかりは「ブルトニアァぁっ!!」と髪振り乱しで絶叫しているし、右隣のおばさんも、ゆっさゆっさと体を揺らしながら大声張り上げて歌っている。

テンション最高潮のまま、Jerusalem、そしてラストの英国国歌へ。割れるような歓声と拍手の中、オーケストラが退場した後は、どこからともなく会場の観客から「ほたるの光」のメロディが。歌声の輪はあっという間に広がり、観客全員が、両隣の人と腕をクロスさせる感じで手をつなぎながら、皆で「ほたるの光」のアカペラ大合唱。




クラシック界が知らず知らずのうちに作ってしまっている、たくさんの壁(ボーダー)。その中でも最も大きなボーダーの一つ、「観客」と「演奏者」の境がなくなり、まさに「ボーダレスミュージック」になる瞬間を、経験した気がしました。

本当に、夢を見てるみたいだった。憧れだったあのプロムスを今確かに体感している喜びと、思い描いていた期待を遥かに超える感動で、涙が溢れそうになりながら、私にとって生まれて初めてのPROMSラストナイトは、幕を閉じていきました。



トップメニューに戻る。